旅の1日目からの続きです
宿で目覚めたのが6時半ごろ。ベランダから見える宍道湖は、そろそろ太陽が昇ってくるぞ、と準備をはじめたくらいの明るさ
朝風呂を浴びて部屋に戻り、旅支度をしているころに夜明けとなる。今日もよい天気になりそう
さて、今日はどうしよう。昨日、かなり満足してしまった。今日は木次線を遡って『砂の器』ゆかりの場所を訪ねようか、今西警部の物まねでもあっちこっちでやろうかとも思っていたけれど、なにしろ列車の本数は少ないし、比較的無理のある行程になる。
昨日は宍道湖の北岸を進んできたので、今日は宍道湖の南岸をゆっくり出雲市まで進み、途中でいくつか面白そうなところを拾って、出雲空港まで戻ろうか、ゆるっとした行程にしよう。
8時前に宿を出て、さて朝飯をどうしよう…と思いつつ街の中心地に向かう。まだ開いている店も少ないし、ちょっと松江の街も散策はしておこうか。とりあえず、国宝松江城にはご挨拶
門松が立派であるなあ
お城の堀を回り込んで、武家屋敷のほうへも。自転車なのでスイスイ進んでよろしいですね
松江はこのお濠廻りの雰囲気がとても良くて好き。昼過ぎになると観光客でにぎわうけれど、まだこの時間、施設も店も何も開いていないけれど、そんな中を静かに散策するのも雰囲気だけで楽しい。こちらは『ホーランエンヤ伝承館』
10年に一度だかの船神事で、次回は平成31年の開催という話ですから、その時はまた盛り上がることでしょう
お堀端を自転車でゆるゆる散策し、さて、そろそろ朝飯にしようと入ったのは堀川に面した『珈琲館』というお店
これ、島根に何店舗か展開している珈琲館で、東京で見るUCCがやってるチェーン店の珈琲館とは違うお店らしい。お堀が見える席に座って注文し、のんびり新聞を読みながら待っていると、さすがにちょっとのんびりの度が過ぎないか、30分くらいして運ばれてきた。お年寄りの団体さんが先に入ってしまったららしい。今日はのんびりしろってことなんでしょうね
モーニングセット、おいしゅうございました。さて、コーヒーをもう一軒。松江の街は素敵なカフェも多い。松江は東京や大阪に出るのに『便利過ぎない』よい規模の都市であるため、人が出て行きすぎない、独自の文化がちゃんと育まれている土地である感じがする。これは松山も通じるところがある。だから好きなのです。で、素敵なカフェも、そういう土壌ゆえに生まれるような気がする。
やはり堀川沿いにある『LITTLE COURT COFFEE』もそんな素敵なカフェで、いかにおもおしゃれカフェな1階で注文して、2階へどうぞ、と来てみれば
え?民家?みたいな階段と襖。そして開ければ堀川を望む素敵空間。
とても落ち着けるよい空間になっている。ここで、自家焙煎のタンザニアをいただきました。酸味がしっかりしていて美味しい。
ところで、このお店の店頭に飾られているしめ縄は、昨日行った『objects』が納品したものらしい
いろいろ、繋がっているのですね。静かにコーヒーを飲んでいれば、そろそろ10時、お店も開きだす時間。松江は和菓子も名物なので、彩雲堂に寄ってちょっとお菓子を買ったり(この店舗は9時からやってました)
駅前のカフェを眺めたり
このクヌートは朝7時からやってるカフェで、ゲストハウスの1階に作られている。今度松江に来るときは、このゲストハウスもいいな、と思ったのだった
松江、いままでもとてもすきな街だったけれど、なんだかますます好きになりそうなのだった。
さて、そろそろ街から出発しましょう。駅の南側の国道9号線に出て、昨日行った島根県立美術館の前を通り、宍道湖畔を走る
地方の国道って大抵、自転車で走るのが怖かったりするのだけれど、この国道9号線は路肩や歩道がしっかりしていて、走りやすい。5kmと走らず、玉造温泉に到着。湖に注ぐ川を少し遡ると、温泉街が拡がっている。
温泉街の玉造湯神社に至る川沿いはいろいろお店や散策して楽しい場所もあって、たとえば小さなボトルを200円で買って温泉が詰められる場所とか。玉造温泉のお湯、アルカリ性で少しぬるっとしていて、肌につけるとするっと馴染みがよくなる感じで、いわゆる典型的な美肌の湯ですよね
このお湯の効能を当て込んだ温泉コスメの店も何軒か。そして川に降りると、少し熱い足湯もあるのでした。入っていきますよ
で、ですね。こういうのも良いのだけれど、この街の一番の名所は、玉造温泉駅の目の前にある『湯町窯』でありましょう
民藝の世界でも有名なこの窯、エッグベーカーを作りだしたことでも有名ですが、店に一歩入れば、個性的な器の数々に目移りしっぱなしになる。特にここが作っているカラフルなストライプ柄の器がだいすきで、以前に来た時に湯呑を買ったのだけれど、今回もいろいろ欲しくなる…。散々迷っていたら、お茶まで出してくれた。ありがとうございます、いただきます。この窯の器だ
で、とうとう決心して、徳利と猪口を買ってしまいました。後悔はない、よい買い物をした…。おうちで使おう。帰る頃に、海外の人を含む若者の集団が来て、賑やかに器を選んでいた。
湯町窯を出て、また西へ。鳥ケ崎から静かな宍道湖を眺めたりしつつ
宍道に近い道沿いのお店、地方にありがちな、店主があらぬ方向にひょうきんに頑張っちゃってる感じですね
玉造温泉から20kmちかく進み、出雲市も近づいてきたあたりで、どうも体の動きが重い感じ。これはもしかしたら…と思い、非常食のコンビニミニ羊羹を補給。羊羹がとてもうまく感じられたので、若干、ハンガーノックの危険があったのかも。朝飯、喫茶店のモーニングで軽くだったから。
おかげさまで無事に走り、神立の交差点をバイパスではなく旧道のほうに入って、出雲市街へ。さて、もう時間も13時で、そろそろお昼。このお昼はちょっと心に描いていた店がありまして
旅先で美味しい店を探すためには自分の嗅覚を信じるのが一番であるけれど、橋本健二さんややまけんさんのブログにその街の名前を入れるのも近道となる。そのやまけんさんが絶賛するお店『石臼・一合』、googleに住所を訪ねたところによれば、出雲市街の商店街のアーケードに入りこみ
素敵な蔵元など横目に
いわゆる飲み屋街の路地に入りこんだところにある…はずなのだが…
お店が見当たらない。スワ閉店したのかと検索するとお店のFacebookに行き当たり、どうやら半年前に移転したらしく。路地を南側に抜けて、交差点を少し西へ進んだ、やはり飲み屋街のビルの1階にそれはあった
あったが、やっていなかった。今日は休みか、もしくは、そもそも夜しかやっていない店なのかもしれない。調べて行けという話ですね。まあいいや、次回の楽しみが増えた。気を取り直して、こちらは老舗の有名店『羽根屋本店』
人気店で大層賑わっていたけれどあまり待たずに案内されて、天ぷら割子定食。しじみ汁もついてる。
昨日の「かねや」も美味いけど、ここも美味い店でありました。ところで、この店のお客さんもそうだけれど、出雲、ほんとに女子旅が多い。そして縁結び的な目的の人も多分多く、人数的には男性より女性が相当多そうなので、真面目な出会い目的の男性も出雲に来れば良いのでは…と一瞬思ったけれど。
別に旅自体に出会いを求めていない可能性も高いから、女子旅のお邪魔になるだけだからやっぱり止めといたほうがいいな。カップルで来ると出雲の神様は嫉妬するなんて話もありますしね。なんてことを考えつつ、出雲市の駅前に出てみれば
こんなところにもあったよ相席屋
しかも、いかにも出雲っぽく、『相席酒場ご縁屋』とある。ここで出雲の神様のご縁で、出会いは果たして生まれるのでありましょうか…
時間も2時を廻って、そろそろ旅も終盤。駅前から自転車をさらに走らせて、国道184号線を南下し、神戸川を渡って西出雲の駅近く。出雲民藝館に到着…したら…
うわああ、本日休館日だった…そんな、聞いてないよ。と、これもちゃんと調べて行けという話で
年末年始は1月10日まで休みと書いてあるではありませんか。いや、しかし、読んで無くてよかったのかもしれないな。もしも読んでいたら、ここまで来なかっただろうし、そうしたら、この立派な構えのお屋敷を見ることも出来なかったのだから
この内部は、日本民藝館に並び称されるような民藝の城だという。また次回、出雲に来たら来なければいけない場所が増えてしまった
それにしても、このあと行く出西窯でも思うのだけれど、出雲地方はどこも正月の縄飾りが立派で、そして実に多様である。こういうものを見られたのも、正月に来て良かった点。以前、正月に京都に行った時も、京都の正月飾りはこんなんなのか…と楽しく見ることができた。ひとつの季節だけ行って、その地方をわかったような気になっちゃダメですね。
あと、この出雲民藝館、売店を手掛けているのが松江の『objects』で、これまた素敵なお店らしい
もしもやっていたら、また買い物してしまうところでしたね…恐ろしい恐ろしい。出雲民藝館を出て、元来た道を神戸川まで戻り、そこから先はひたすら東へ。出雲弥生の森博物館の前を通り過ぎて、斐伊川のひろい川幅を渡ると、出西窯にたどり着く
田んぼのむこう、山に抱かれるようにある出西窯、遠景から眺めつつ近づいていくだけで、なにやら雰囲気が良い。
この出西窯、工房や登り窯も見学できる民藝な窯元でして、場所といい、建物といい、たいへん、雰囲気の良いところ。見学用のコースが用意されています、みたいな雰囲気ではなくて、普通に作業している工房を間近に見ることができるのだ。すごい。
工房や窯のまわりのいろんなものを観察したくなる
そしてお隣の建物では、もちろん、うつわも購入もできる。日常使いに寄ったものが多く、柳宗理セレクションの器もあって、ここも民藝と生活の真ん中にいる感じなのだった
緑釉の使い方とか、好きだな。器そのものとしては湯町窯のほうが好きだけれど、湯町窯は全体的に、結構よいお値段がしますからね…。
この窯の器で、コーヒー、紅茶、お茶などをサービスでいただけるコーナーもあって、しばらくのんびり。さて、そろそろ、空港に向かいましょう。出雲空港に向かう途中、最後の立ち寄りは国道9号線沿い、湯の川温泉の入口にある道の駅。
湯の川温泉にしっかり浸かっていくほどは時間がなさそうだし、そろそろ日も暮れそうだったので、ここの足湯にしておこう
地元のおっちゃんおばちゃんの方言を聞きながらの足湯も楽し。17時過ぎに出て、3kmちょっと走れば、もう出雲空港、怪我無く無事に到着、良かった
自転車を輪行袋にしまううちに、すっかり暗くなってしまった
軽く着替えをして、自転車と荷物を預ける。自転車、地方の空港の手荷物預けにあるタイプのX線検査の機械を通せるサイズだった。その後、お土産を物色。
空港のお土産屋、もちろん、買い逃したお土産を買うためにもありますが、旅路で買ったお土産が空港だと高い値段になっているのを見て、あそこで買ってよかった!と思うことができる効能もありますね。ここで買っても一緒だった、重い思いをしてずっと運んでいたのに…と、なることもあるけれど。
どっちにしても、地元の経営母体がやっている店(出雲空港の場合、一畑デパート)は品揃えがしっかりしていて、JALがやっているBLUE SKYの品ぞろえが詰まらないのは共通ですが。
特に買い物は無く、少し時間に余裕があったので、食堂に入ってばんごはん。もう自転車に乗らないから飲めるゾ…というわけで、瓶ビールと赤天野焼きのセット、1100円なり
さらに追加して、のどぐろ(アカムツ)と地酒のセット1600円です。地酒は、七冠馬、李白、出雲富士。それぞれに個性あり。のどぐろも、味が凝縮されてて美味いなー
空港の中なのに、しっかり飲めますね。保安検査の口が一か所しかないのでお早めにとアナウンスに急き立てられて行列に並び、19時25分発の羽田行に搭乗したのだった。
それにして、これだけ楽しませてもらって、自転車も丁寧に運んでもらって、たった6000マイルで良いのだろうか、申し訳ないくらいである。だけどその分、旅先の飲食店やお店でけっこうお金を使ったし、まあ良いか。とくに器に。考えてみれば、羽田発着しか設定されていない点といい、行き先がある程度バラける点といい、「どこかにマイル」は一種の地方振興策なのかもしれない。ならば遠慮せずに、また使おう。
機内で眠っているうちに東京湾上空。着陸して荷物のレーンで待っていると、普通に自転車がレーンを廻ってきた。輪行袋に紙が貼られているのですが、預ける時に『なるべく縦にして運びますが、横にする場合はどちらを上にしたらよろしいですか?』と聞かれて、その、上にする面に貼られているのです。
あとは、エアポート急行で日の出町まで1本、無事に帰宅したというわけです。2日間、自転車の走行距離は153km、実に充実した楽しい旅でありました。