日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

スーパー銭湯やスパ施設はもう飽きたあなたのための彼岸、綱島温泉東京園

まだ日も高く、家に帰るのも億劫なので、久方ぶりに東京園へ。風呂に浸かれれば、という程度の気持ちだったが。この東京園は綱島温泉の公衆浴場で、昼間はお年寄りの楽園と化している。休日はそんなこともなかろう、と入ってみると、いやいや、見事に楽園であった。

入り口で800円を払い(1時間以内に出ると400円を返金してくれるし、16時以降に入れば、はじめから400円だ)、まずは真っ黒なお湯につかって汗を流す。風呂は広く、電気風呂もある。上がって、宴会場に赴けば、そこはもう天国である。

広い広間の外には広い庭が広がり、ニンニンゼミがうるさいほどに鳴き、木と木と間からは涼しげな風が吹き込む。風呂上りの火照ったからを風が冷ましてくれる。ああ、落ち着いて静かな素敵空間、などと上品なことを考えては、あなた、それは大間違いだ。だって、お年寄りの保養所であるからには、今、カラオケと社交ダンスは無くてはならないのだから。

演歌と言うのか、ムード歌謡というのか、なぜすべて同じに聞こえるのだろうか。不思議だ。見事に同じような旋律の音楽が流れ、決して上手とはいえない、というか、有体に言ってへたくそな歌にあわせ、舞台に上がって社交ダンスに興じる老人たち。落ち着いて踊っている人たちも、その下にはぐつぐつとしたさまざまな欲望を抱えていたりするのだろうか。知らんけど。

ここの魅力のひとつは、なんと言っても食い物と飲み物の安さである。生ビールは250円、ビンビールも大瓶で300いくらか。スイカ120円、トマト70円、たこやき100円、揚げ物やら惣菜やらが、スーパーよりも安いんじゃなかろうか、という値段で売っている。うどんも150円。老人たちは朝から行列を作り、一日、カラオケ、社交ダンスに興じながら、話に華を咲かせ、食べたり飲んだりするのである。

建物には2階もあり、相当に広い。一部の部屋を貸切にして宴会することもできるようだ。この日は「倫理の会」という、非常に倫理に溢れた名前の会が広いスペースのひとつを貸しきっていた。しかし、そのような部屋が何部屋もある。まるで古い温泉地に行ったようだ…。と書きながら、綱島はまさに歴史のある古い温泉地だったのだなあ、と思いだす。昔、綱島駅は「綱島温泉駅」と言ったのだ。

「まあ、そんなお年寄りばかりの空間、入っていけないわ」という方でも心配はいらない。オープンスペースは非常に広く、入り口に近いこの空間には、若い人の姿もそれなりに見受けられた。400円で入浴できるので、銭湯代わりに使う人も多い。番台では、タオルと石鹸のセットを100円で販売している。
つまみの皿を積み重ね、ビールの瓶を多量に並べた6人の老人たち。大声で話すその内容に何気なく耳を傾けると
「だからさ、いい女紹介するよ!いい女だよ。85歳!」
「そんなばあさんだめだよ」
「それがいい女なんだ、なんたって85歳で処女!85歳で処女なんだから!処女だよ!」
まだまだ到底敵わねえな、と思う。