日毎に敵と懶惰に戦う

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野毛の街で呑むのこと…武蔵屋、福田フライ

年休を突発的に取得したので(というか、代休を取り忘れていたらしい)、夜はとにかく、平日しか行けない武蔵屋に行こうと思っていたのだ。武蔵屋は野毛の居酒屋で、もう文化遺産になるのではないか、というような店で、心地よいルールに従って静かに飲む店であるといろいろな情報から聞いていたので、まあとにかく、静かに呑もうと訪れる。のだが。
店情報: 居酒屋「武蔵屋(むさしや)」(横浜・野毛): 居酒屋礼賛
しもた屋と言えばいいのだろうか、しもた屋としか表現の仕様が無い、まさに居酒屋というのはこれだ、というような構えの店に到着(と言っても、家から徒歩1分なのだが)したのは、開店から10分後の5時10分。しかし、この時点で店はすでに満席。入ろうかどうか躊躇したのだけれど、ご夫婦が座った4人席に相席させてもらうことができ、とにかく席に落ち着く。ちなみにこの席には、この後、さらに相席の人が来て、座っていた。
文化財になりそうな店に、これまた文化財になりそうな老婆2人、それを助ける若い人が2人。お孫さんだろうか?という雰囲気。実際は学生のアルバイトらしい。
最初に『お酒ですか?』と聞かれる。この店は、最初からお燗か、とりあえずビールを頼むか、の二択しかない。体も冷えているのでとにかくお酒で、とお願いすると、おつまみの“たまねぎの酢漬け”と“おから”が運ばれた後、おばあちゃんが一杯目の日本酒を、グラスになみなみと注いでくれる。桜正宗の燗酒。お酒はこれだけ。程よい燗の具合で、しみじみと旨い。そしてつまみも旨い。風格のある構えの店でこんな呑み方をするのは、たまらなく贅沢で、自然と笑みが漏れてくる。
相席させていただいたご夫婦…いやまあ、ご夫婦っぽいな、と思っただけで、実態が失楽園なのかなんなのか、知るところではないのだけれど、ほんわりと由無し事を語り合っている。ややあって一杯目が空くと、二杯目が注がれて、“鱈豆腐”が運ばれてくる。温かいつまみは実はこれだけなのだけれど、ポン酢風味の鱈豆腐がほんわりと旨い。酒も進む。周囲を見回すと、お客さん、誰も彼も飲み方がきれい。スッとしている。もうひとつおつまみ、“納豆”も、ねぎの具合が良い。
そろそろ三杯目、というころに、“おしんこ”が運ばれてくる。終始一貫、おつまみはあっさりした味付けで、とにかく上品。老婆二人も上品、お客さんも上品、なにからなにまで上品。居るだけで幸せになるような店。
三杯目が終わればおしまい。ここは、三杯しか出さない店なのです。賞味1時間弱の滞在。2,200円のお勘定を済ませて外に出てみれば、まだ6時であるのだけれど、席が空くのを待っていたサラリーマンがたちまち入ってくる。なんだか、これは現実なのだろうか?と疑うような、桃源郷のような店だった。火曜日から金曜日まで、夜も8時半には暖簾を下ろしてしまうので、普段はなかなか来られないよなあ…。
野毛の街、萬里で、野毛パスポートの最後の1枚を使ってちょっとつないぎ、なんとなく入ったパン屋でバケットを買い、まあ私ってばパリジェンヌ!みたいな気分でもじょもじょとちぎっては食べながら。たどり着いたのは、福田フライ。これも野毛の名物店。こっちもはじめて。
店情報: 立ち飲み「福田フライ(ふくだふらい)」(横浜・桜木町): 居酒屋礼賛
カウンターだけで入り口開放な店はガレージを改装したのだろうか、というような店構えなのだけれど、とにかくお客が多い。私は焼酎の水割りと、それから、名物のフライ。串かつ、かきをお願いして、さらにくじらとしいたけをお願いする。カラリと揚がったフライは、ソースにしても『辛いの』のしても味が濃いのであまり繊細なものではないけれど、ビールや焼酎には良くあって、旨い。しばらく滞在して、お勘定も正直価格970円だった。
なんだか、ふわふわと幸せな気持ちになって帰宅するのだった。