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白金コンプレックス『シャッフル』が凄いことに…

東京のギャラリーはあちこちに移転を繰り返し続けているけれど、その時その時で同じ建物や地域に集まる傾向がある。いまなら清澄白河、六本木のピラミデ、馬喰町などなど…。かつて集まり、今は跡形も無いビルもある。今、白金も、そうしてギャラリーが集まっている地域。一つのビルの1階から4階までにギャラリーが入り、5階は設計事務所になっている。その2周年を記念して企画されたのが今回の展覧会
Shuffle|シャッフル 白金アートコンプレックス合同展覧会 / Heaven | 個展なび
美術史家で明治学院大学教授の山下裕二先生がゲストキュレーターとなり、1階から4階までのギャラリーの所蔵品をまさに『シャッフル』して展示する展覧会。まず1階の児玉画廊では、根来の壺にめを奪われる。使いこまれた漆器の美しさ、しかも、普通だったらガラス越しに見るようなものが、すぐに手に届く場所で見られる幸せ…。本当に大丈夫なのこんなところに展示しておいて?という挑戦的な感じなんです。そして、画廊の他の作家たちの『色』を前面に押し出したドローイングと並べられることで、普段の違った見え方もされてきて、まさにシャッフルの妙味。
2階のNANZUKA UNDERGROUNDでは、これまた古美術と現代アートの『仏像』が林立する。どれもこれも存在感が物凄い。3階の山本現代でも、どんと据えられた愛染明王像の軸の色の繊細さにハッとなり、田名網敬一などの絵画と比較してみると、決して遠からず、ということがわかる。このあたりまで、まさに『シャッフル』という感じなのだけれど、圧巻は4階だ。

古美術のエッセンスが階下の現代美術ギャラリーに降り注ぐようなイメージを考えたのですが、児玉画廊、ナンヅカ・アンダーグラウンド山本現代は、いずれ劣らぬ現代美術ギャラリーの強者で、それぞれに強烈な発信力をもった作家がいます。

という、4階の、古美術を扱うロンドンギャラリー。本気過ぎて怖い。本堀雄二の使用済み段ボールによる仏像が中心にあるのだけれど、不動明王像、地蔵菩薩像、長谷川等伯の屏風、円山応挙の掛軸。居心地が良い、まるで居間のような大きすぎない空間に、これらの作品がね、手を伸ばせばすぐに手が届く、息が掛る、そんなところに、ガラスも何も無い状態で並んでいるのですよ…。この日に外の天気は大荒れ。和風のしつらえをしたベランダには嵐のような雨が突き刺さり、窓ガラス一枚隔てた中で、不穏な雲が画面全体を支配している応挙の掛け軸をじっと見つめる幸せ。どこかのお宅に訪問して、独り占めして応挙の掛け軸を見させてもらっているような…こんな贅沢なことがあってよいのか…。長谷川等伯の屏風も、いくらでも見ていられるのです。
床の間には地蔵菩薩像が。この前にじっと座りこんで、ずっと、この鎌倉時代の地蔵菩薩像を見つめている女子がいて。自分に気がついてちょっとよけてくれたのだけれど、ああ、これは、そうしたくなる気持ちが良く分かる。手にも取れそうな距離で、慈悲深い地蔵菩薩と、いつまでも対話していたくなるような幸福感。はあああ…。いや、もう…。
土曜日しか入れない5階の新素材研究所では杉本博司のコレクションが並び、榊田倫之建築設計事務所では窓の外の高速道路の眺めも面白かったりして、土曜日、会期中唯一残された30日の土曜日に行くと良いのだろうけれど。できれば、雨の降る静かな平日の夕方前などに行って欲しい。4階のロンドンギャラリー、ほんとうにね、幸せすぎて泣いちゃう。近くで見ると古美術、まるで違う。残り少ない会期ですが。
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「Shuffle|シャッフル」展 | 弐代目・青い日記帳