日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

池之端藪で正しい年寄りを見る

受験を控えて大学を下見する高校生を横目に、構内を通り過ぎ東大病院の脇を抜けて、池之端門から出る。不忍池の横を通って池之端の藪蕎麦に入る。ここは初めて。1500円也の天ざるを頼む。
横の二人の会話を何気なく聞く。片方は90を超える爺さん、もう片方は60前後で娘か義娘らしい。この爺さんが
「あんたは百万回聞いたろうが、俺は30の頃は2000人の女を使っていてね」
などと言い出す。凄いなあ。とにかく人の話はまったく聞かず、自分の話を「俺は何でも知っているんだ」と話し、間違いを訂正しようとしない様子が、最近はなかなか見れない正しい年寄っぷりで嬉しくなってしまう。年寄はやっぱりこうじゃないと。相手の娘も負けていない。爺さんが、庭に来る鶯が…という話を始めると、
「それは鶯ではなくて、実は目白だ。東大の先生に聞いたから間違いない」
と言う話で爺さんと議論を始めて、10分近く1歩も引かずに議論が続く*1。その後も、花粉が飛ぶ理由、日本に杉が多い理由、満州奉天の近くにある湖の名前、大連大和ホテルが改装したかしないか、お互い相手の言うことを全く聞くつもりござらん、とばかりに応酬が続いて、この二人は何年間こうして生きているのだろうと考えると気が遠くなる思い。
家にいるお手伝いさんの話が出たり、娘のほうが浅丘ルリ子のドキュメンタリーに触発されて来月新京に行く事にしたと言出したり、お金は大層あるらしい。爺さん、実際には、若い頃はどんな商売をしていたんだろうか。
蕎麦のほうは、蕎麦も汁もてんぷらも大層結構な味ではあったが、いかんせん量が少ない。蕎麦というのは2種類あって、飯としての蕎麦と嗜好品としての蕎麦があって、この店は後者なのだと思えば納得はいくけれども。酒を飲んだら楽しそうな店だと思う。
お会計1500円也。爺に400円、娘に300円、蕎麦に800円。投げ銭放り銭はお断りらしいので、とりあえず店にまとめて払っておいた。

*1:ここでも、爺さん、最初は「俺は10年間、春は毎日鶯を見てきた」と言っていたのが、話が白熱すると「30年、50年、毎日30分は見てきた」になっていた。実に正しい年寄っぷりだ。萌える。一緒に暮らしたくは無いけど