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三浦展「下流社会」を読んで

下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)

下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)

三浦展は解決策を提示しない。するつもりも無い。現象を切りとってキャッチ−に提示するだけだ。だから、そこに何か希望を見出そうとして読んではいけない。実証的な考察を求めてもいけない。ただただ、三浦展が鮮やかに…いや、鮮やかと言っていいのか…ばっさりと、大胆不敵に、身も蓋も無く、大雑把に、切り出した一断面を、ほー、と言いながら眺めるのである。
論考そのもの骨子は、山田昌弘の「希望格差社会」をほぼなぞった物であり、日本の社会の階層化と、特にその「下流」部分における希望の喪失、生きる気力を失った若者…ようするに
http://www.moee.org/game.html
のような現状、といったあたりを描いている。団塊ジュニア世代の「上」「中」「下」意識と、それぞれの生活態度、消費性向などを、聞き取り調査をもとに順に説き起こしていく部分が肝になっている。しかし、全体としての主張の一貫性へのこだわりとか、データの信頼性の追及が行なわれているわけではなくて、読んでいて「ちょっとした知的発見と驚きと深層の欲求レベルでの納得」を得られるような記述に終始するわけであり、例えば

私は団塊ジュニアの「下」のキーワードを「3つのP」と表現する。すなわち
・パソコン(Personal Computer)
ページャー(Pager)=携帯電話
プレイステーション(Play Station)テレビゲーム
以上3つが団塊ジュニアの特に「下」における三種の神器であろう。ついでに悪のりしていえば、
・ペットボトル(PET bottle)
・ポテトチップス(Potato chips)
を加えて5Pでもよい。

なんという、「広告屋はしょーがねーなー」な記述も出てきちゃうわけである。
んーとね、だから何が言いたいかと言うと、格差社会の問題のアウトラインをなんとなくなぞるために読んで「ふんふん、へー」と頭の隅に置くには良い本だけれど、そしてだからこそベストセラーになるかもしれない可能性があるわけだけれども、あんまり真面目に対しても駄目ですよ、ということで。あと、都市とその郊外の若者像を想定しているので、地方への目は行き届いていない。
読んで1番面白いのは第2章の女性、男性の類型化の部分で、女性を「上昇志向-現状志向」「職業志向-専業主婦志向」の軸から「お嬢系、ミリオネーゼ系、かまやつ女系、ギャル系、普通のOL系」に。男性を「上昇志向-現状志向」「仕事志向-趣味志向」の軸から「ヤングエグゼクティブ系、ロハス系、SPA!系、フリーター系」に類型化しているのだが。それぞれの説明があんまりにも類型的で見も蓋も無いのだが、このあたりが三浦展の真骨頂で素敵。特に「SPA!系」の説明があんまりっちゃああんまりだ。

雑誌『SPA!』の主要読者層と思われる「中」から「下」にかけてのホワイトカラー系男性。
特に勤勉ではなく、仕事好きでもないし、才能もないが、フリーターになるようなタイプではなく、仕事をするにかないので仕事をしているというタイプ。
ブランド志向は強くないが、オメガなどは普通にディスカウント店で購入。でもスーツはスーツカンパニーでもいいし、ユニクロはよく買う。
あまり高級な趣味はないが、サブカル好き。オタクと言われない程度にオタク趣味を持つ。ガンダムが一般常識という典型的団塊ジュニアであり、異常でない程度にロリコン趣味や格闘技系趣味を持つ。
パチンコなどギャンブルも好き。高校生活にカラオケボックスに入り浸った者が多い。キャバクラ、アダルトビデオなどに金をつぎ込む者も少なくない。
ロハス系と同様、できればもっと趣味の時間を増やしたいと思っているが、仕事の要領がよい方ではないので残業が多い。週60時間以上労働を過去数年続けている。
いずれは結婚して親とは別に戸建て住宅を買うだろうとぼんやりと人生を計画し、貯金もそれなりにしているが、それがいつになるか決め手がない。『週刊プレイボーイ』のグラビアアイドルみたいな女の子が突然目の前に現れて結婚できないものかと妄想する日々が続く。
地方出身者なら地方に帰ってもう少し楽に生きることを望むのだが、大都市圏郊外出身者が多いのがこの世代。帰るべき故郷はない。だから、ずっとサラリーマンを続けて、親が買った郊外の家から都心まで通勤しなければならないのが悩みである。