日毎に敵と懶惰に戦う

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『ゆれる』

小林信彦大絶賛の『ゆれる』を、シネ・アミューズでみる。いや、素晴らしい。ストーリーには触れない。脚本が練りに練られていて、巧みだ。で、とにかく、香川照之が素晴らしい。素晴らしすぎる。素晴らしすぎて、怖い。この映画、兄である香川照之と弟であるオダギリジョー、どちらに感情移入できるかと言えば、多くのわれわれの暮らしは、東京に出る出ないに関わらず、香川照之的なところに近いのかも知れないのだが、しかし、香川照之に感情移入できないのは、あまりに巧みすぎる香川照之が、とにかく怖い。怖いからだ。上手すぎて、不気味だ。だから、終始、オダギリジョーの立場で、目の前で繰り広げられていく展開を、胸の詰まるような思いで見続けることになる。緊張感。
分かりやすく張られた伏線、分かりやすい暗喩、分かりやすい隠喩、モンギリガタな演出もあるのだが、そういうのが食傷なのではなく、それを映画的な確かな足腰にして、その上で展開する香川照之がとにかくえらいことになっているのだ。勿論、オダギリジョーも良いのだが、その分かりやすさが、兄の不気味さを引き出すための媒介になっている。
ただ、どうも、クライマックスの部分で途端にドラマが弛緩するような気がするのは、香川照之がほとんど出てこないだろうか。しかしとにかく、これはじっくり見る価値のある映画ですよ。
んで、脇役の話なのだが。木村祐一河原さぶ(私はこの人、知らなかった。連れに教えてもらった)が、なんというか、面白いのだが、特に木村祐一が、おいおい、というほどやりすぎで、どうなんでしょうか。面白いんだけど。ほいから、オダギリジョーがコトに及んでいるシーンで、ガソリンスタンドで働いている香川照之が、トラックのガソリンタンクにノズルを突っ込むシーンが被る訳だが。これは笑っていいのかなんなのか、微妙だった。どうも、笑いの部分の受け取り方はちと微妙ではあったが。
しかしそれにしても、これはいい映画ですよ。